小学校英語教育のシンポジウムに参加しました。

本日2月3日福井大学にて「小学校の外国語活動における効果的で魅力的なインプットとは」という題目でシンポジウムが行われました。基調講演として、信州大学の酒井先生が英語教育に必要なインプットという題目でご発表くださいました。

先生の主張はシンプルかつとてもわかりやすいもので、学校現場の教師に多くの示唆を与えてくれました。今日のお話のポイントは以下のようなものでした。

1)アウトプットよりもまずインプットを与えること。

2)インプットの情報はauthenticなものを扱うこと。本物の情報を使うこと。

3)インプットは理解可能になるように与えること。そのためにはまず皆が知っていることでやりとりをする。皆が知っている事を同じパターンで何回かやりとりしていくと、インプットが何を表しているかを学習者は把握してくれる。インプットが理解可能になった時点ではじめて皆が知っているとは限らない事、皆が知りたい事を扱う。

この3点をベースにワークショップや具体例をたくさん示していただき、大変勉強になりました。上記のお話は小学校の外国語活動だけでなく、中学校、高校、はたまた大学においてもインプットを与える上での基本的な技術になるように思います。「英語の授業は英語で」と言われて久しいですが、単に教師が何でも良いから英語を話すのではなく、インプットを理解可能にするために必要な工夫をする必要がある、そのためのポイントとして上記の3点は攻守に関係なく当てはまるものだと思います。

さて、シンポジウム後一人で考えていたのですが、中学生以上を対象にインプットを与える際には、上記の点に加えて、インプットを受け入れようとする動機を如何に高めるかを考える必要があるように思います。教師が学習者の習熟度を考慮したレベルのインプットを行い、知的に面白い材料を扱おうとしたとしても、学習者にインプットを受け取ってもらわなければ何もスタートしません。学習者にどのようにインプットを聞くための動機づけを高めるか、どうしたらインプットを聞こうと思えるのか、別の言い方をすると、如何に学習者をノセることができるのか、いう点を工夫していく必要がありそうです。多分ノセ方もある程度パターン化というか一般化できそうな気がするんですよね。それはまた別のお話になるのでまた別の機会に・・・

もう一つ考えていたことは、以下のものです。今回のお話の中では、外国語活動ということもあり、その目標はコミュニケーション活動を体験すること、実際にコミュニケーションができた、英語が通じた!という体験を通して達成感を味わったり自信を養ったりするところにあるとのことでした。つまり、言語形式面の習得が目的とはされていないため、その点に注意を払う必要があります。 ほとんどの教師は日本の文法偏重の英語教育を受けてきたのではないかと思います。文法訳読、文法偏重の指導法の根底には英語を正しく使用する必要がある、といった認識があります。つまり英語使用=間違ってはいけない、という認識を意識的なり無意識的になりもってしまっていると思います。しかしながらコミュニケーションを行う上で完璧な英語を話す事はほぼ不可能ですし、話す必要もありません。誤りを含みながらもコミュニケーションを乗り切ることができる、課題を達成することができる、そしてコミュニケーションを乗り切ったり課題を達成する中で達成感を味わったり自信を深めていく必要になります。したがって教師は自分たちが受けてきた英語教育とは全く違う手法、考え方で外国語活動に望む必要があるということをよく覚えておかなければなりません。

「まとまった英文を書く指導」福井県英語懇話会冬季シンポジウムより

12月23日に福井県英語懇話会シンポジウムに参加してきました。今回は3名の先生方(中学校・高校・大学)が「まとまった英文を書く指導」についての実践を発表されました。大変刺激的で明日から(といってももう冬休みですが)でも使用できる指導法を提案され、勉強になりました。

中学校の先生からはまとまった英文を書く指導についての指導法をこれまでの実践からピックアップされて紹介していただきました。高校の先生からは各単元において要約を書かせるためにどのような指導を行ってきたか、大学の先生からはプロセスライティングを実際に行った手順や学習者の感想を報告していただきました。

先生方の発表を聞きながら自分なりに「学習者にまとまった英文を書いてもらうためにどのように指導できるか」を書いていきたいと思います。シンポジウムの段階ではmisunderstandしていた部分があるのですが、「まとまった英文」という時には、「ある程度のまとまった量がある」という量的な観点と「まとまりのある英文」という質的な部分の両方があることを最初に明記します。

「適切な」支援を行う
お題を与えていきなり「さあ書きなさい」では何を書いて良いか、どのように書いて良いか分かりません。「書く」という行為はあくまでも最終行為ですから、何を書くのか、どのように書くのかを適切に支援しないといけません。

英作文における「支援」というと、真っ先に思い浮かぶのは言語使用の正確さに焦点を当てた添削だと思います。いわゆるエラーコレクション(error correction: ER)ですね。ERが悪いとは 言いませんが、それ以外の支援が「まとまった英文を書く」ためには必要になるでしょう。

「まとまった英文を書く」という観点からは、言語形式面だけではなく、内容面(content)の部分を活性化させる支援と構成面(structure)の支援が必要だと思います。内容面に関してはマインドマップ、グループ・ディスカッション、教師主導のブレインストーミングなどがあると思います。構成面に関してはモデルを与えたり、パラグラフの構造を解説したり、フィードバックを与える(これは書いたあとになってしまうかもしれません)などの方法があります。いずれにせよ、内容面、構成面をきちんと学習者に準備させた上で「じゃあ書きましょう」ともっていかないと、力のある一部の学習者しかタスクを達成できないかもしれません。

ちなみの上記の添削については、ERだけではなく、ポジティブなコメントを添えることで学習者の自己効力感を刺激したり、内容面について「○○についても書き加えてみたら?」などというフィードバックを与えることも可能でしょう。添削については添削=ERではなく、幅広い支援ができることを常に覚えておく必要があると思います。

1つの英作文に誠実に向き合う
何回も書かせるということです。re-writingが重要だという意見はシンポジウム時にフロアの先生からも提案がありましたが全くもってその通りだと思います。通常まとまった英文を書く際に、量的にも質的にも満足できるものを一発で書くというのは相当の技術が必要とされます。

例えば僕は某学会でよく8ページの紀要を書いて投稿させていただいていますが、その際の8ページを一発で書き上げてそのまま投稿する、ということはまずありません。一度とにかく書いてみてあとはreviseの連続です。全国英語教育学会でOrtega先生もおっしゃっていましたが、reviseすることで論文が洗練されていきますし、reviseをどれだけ真剣に行ったかでその論文の質が変わっていくと思います。

教室内の英語教育とはちょっとずれてしまった例かもしれませんが、同じことは言えるのではないでしょうか。特に中学校や高校では授業の進度や教員の仕事量を考えると、同じ英作文を何回も書かせて指導するということは実践性という面においては難しいかもしれません。それでも教員も学習者も根気良く一つの英作文に向き合うことで量的にも質的にもまとまった英作文に近づけると思います。この考え方は大学の先生からの報告にもあったプロセスライティングの考え方と同じであると思います。

まとめ:基本的だけどやっぱり重要
上に挙げた支援というのは基本的なものであると同時にちょっとでも教えた経験がある先生だと当たり前のように知っている内容で、取り立てて書き出すものではないかもしれません。しかしながら、実際に授業で英作文を扱った時に上記の手法をすべて駆使して指導できる教師というのは稀であるように思いますし、僕もできていません(反省)。そういった意味では記事を読んでくださった方がもう一度自分の指導を振り返っていただけると幸いです。

余談ですが、個人的には英作文指導の研修をぜひALT対象に行って欲しいなと思います。彼らは英語に関しては一種のロール・モデルでありますし、ほとんどのALTの先生方は学習者の英作文にきちんと向き合ってくれています。ALT任せにしましょうと言っているのではなく、ALTとの分担作業がスムーズにできるためにも、研修を行ってそういったスキルを身につけてもらえるとありがたいですね。

LET中部大会@名古屋

11月30日、12月1日にかけて第80会LET中部大会に参加してきました。今回もたくさんの新しい先生方との出会い、先生方との交流、新しい知識の取得ができてとても充実していました。

今回はまず、前田啓朗先生と水本篤先生方達の統計や研究手法に関する講演、シンポジウムを目標に参加しました。発表者の方々は全員が統計のエキスパートで、かつものすごく分かりやすく説明してくださり、大変勉強になりました。分かりやすい説明というのは本当に分かっていないとできないもので、僕なんかが時折質問メールを送ってくださる学生さんたちに統計のお話をしようと思っていてもどうしても難しい言葉の羅列になってしまいがちです。中々理解してもらうのに苦労するのですが、今回の先生方のご発表は平易な言葉で話題を絞ってお話ししていただいたため、僕自身本当に勉強になりました。

帰りの電車の中、電車待ちの時間に復習を兼ねて紹介していただいた文献の一つを読んでみましたが、講演で聞いたお話のベースがあるおかげでかなりスムーズに頭にいれることができました。多分講演を聞かずに文献だけ読んでも、ピンとこなかったところも多かったでしょう。そういった意味では、論文を読むことは基本ですが、直接会ってお話を聞いて、チャンスがあれば質問させていただいたり、議論させていただいたりすることは本当に大切だなと思います。理解度が全然違うのでこれからもこの習慣は続けようと思います。

また、自由研究発表では、主に知り合いの大学院生の方々の研究発表を聞かせていただきました。内容がとても緻密で、まさに「研究」という、さすがD課程、またはD課程を目指す学生さんだと脱帽しました。彼らの発表はいわゆる「基礎研究」なので、今すぐ教育的に生かされる種の研究ではありません。しかし、「基礎研究」がどんどん蓄積され、収束されていくことで、新たな知見が生まれ、さらに研究が積み重なることで教育的な示唆をもつようになります。そういった意味で彼らは未来の英語教育に投資してくれていると考えることもできます。このような研究は僕のような立場の人間からはまず出てこないと思っているので、本当に尊敬します。

今回もたくさんの刺激をいただきました。また、いつもですが、他の研究者の方々、大学院生の方と比べると自分が如何に読めていないかを痛感します。身と心をしっかりと引き締めて一つ一つ着実にこなしていきたいと思います。