Takuro について

福井高専一般科目教室准教授

『英語教育ブログ』みんなで書けば怖くない!第4回「英語教育この1冊」

英語教育2.0 anfieldroadさんの企画、『英語教育ブログ』みんなで書けば怖くない!第4回「英語教育、この1冊」に参加したいと思います。先日twitterでも活発なやり取りがされていてとても興味深かったのですが、今回ブログの投稿として色々な英語教育関係者のまとまった意見が聞けること、とても楽しみにしています。僭越ながら僕も参加させて頂きます。

さて、英語教育、SLAにおいて僕の知っている限りでも面白い本、刺激的な本はたくさんありますが、今回はあえて現場の教師という視点から「この一冊」を選ばせてもらいました。(研究面に関してはきっと他の先生方が面白い本を推薦してくださるはずです。)僕が推す「この一冊」は

田中武夫・田中知聡(2009)『英語教師のための発問テクニックー英語授業を活性化するリーディング指導ー』

です。山梨大学の田中武夫先生が発問についてまとめられた本です。この本を推薦する理由はいくつかありますが、一番の理由は、この本が「教材研究の方法」を解説している本であるからということです。タイトルには『発問テクニック』と銘打っており、発問を行う理由、発問の考え方、発問を中心とした授業展開が解説されていますが、それらの背景を良く読んでみると、「教材研究は文法・語彙の予習だけで終わっていてはもったいない」という提案がされていることが分かります。

例えば、教材研究をする際に、文法の予習をする、語彙をチェックする、意外にどのような観点から教材研究をするでしょうか。普段お忙しい先生だと、「次の授業は最初に○○をして、次に××をして、最後に△△をしよう、時間的にもこのくらいが妥当だろう」というレベルでの教材研究(研究と呼べるかどうかは定かではありません。むしろ「授業の準備」というほうが適切でしょうか)をされる方もいらっしゃるようです(現任校にという意味ではありません。ただ、今まで色々なところで教えてきましたし、様々な英語の先生方と交流させて頂きましたが、その中には上記のような方もいらっしゃったということです)。「ベテランの味」なのかもしれませんが、もう少し腰を据えて教材と向き合いたい、授業と向き合いたいと考えたとき、この本は教材研究の一つの枠組みを示してくれると思います。

僕の地元では「意見・考え」を問う発問を中心とした授業の研究会があり、若手の先生も多く参加されていますが(という僕もまだ「若手」の一人です)、彼らと話していると「この単元でどうやって意見考えを聞けばいいの?」という声をよく聞きます。そのような声を研究会であげると、ベテランの先生方から「教科書を読み込みなさい」という答えをよくいただきました。当時は、文字通り教科書を何回も読んでみたものですが、よい発問が浮かんできませんでした。何が足りないのかなと考えていたのですが、『発問テクニック』を読んで教材の「見方」というか、どのような視点をもって教材を読み込んで分析していくべきかが理解でき、教材を読み込むということがどのようなことかを理解できたように思えます。

この本では教材を解釈する視点として、文法面、語彙面を除いて少なくとも6点提案されています。その6点が何かと言うことは本書を読んでいただくことにしましょう。僕は今までこの6点すべてを念頭において教材研究をしていたと胸をはって言える自信は全くありません。そういった意味ではまだ若い(?)時期にこの本に出会えて、英語教師としてとても幸せだったと思っています。現在はこの方法で教材を分析してから狙いを考えて、授業で取り扱う一つ一つの活動を考えるようにしています。全てが成功しているとはもちろん言えませんが、毎回授業で学習者がどのような反応をするかな、と授業が楽しみになってきているように感じます。

本書は現在英語教育に携わっている先生方みなさんにお勧めなのですが、特にお勧めする層としては、以下の方です。
① 新採用、または経験の浅い英語の先生
② 教育実習を控えた大学生、大学院生
③ これまでの文法・語彙解説一辺倒の授業を変えたいと考えている先生方

特に20代の英語教師の方にはぜひ読んでいただきたいと思います。いわゆる実践本にありがちな「派手な技」はありません。しかしながら、この本を読んで実践することで着実に「授業の基礎」「教材研究の基礎」を身につけられるように思います。

 

動機づけを高めるために:全体授業からの脱却

現在の職場は以前も書いたように、少人数での授業を実施しています。しかしながら少人数のメリットを十分に活かせていなかったことや、普段の授業の学習者の意欲を観察していて、何か今までとは違う手段が必要だなと感じていました。

そこで、休憩がてらぼーっと考えていた時に、ふと以前読んだ自己決定理論の概要が頭をよぎりました。僕が読んだ文献の中では、自己決定理論の中で動機を高める要素の中に「関係性の欲求」ということが述べられていました。その時はただ単に読んだだけだったのですが、実際の授業を通して改めて自己決定理論に触れた時、この「関係性の欲求」に焦点を当てて授業を行うことから始めようと考えました。また、ちょうどそう考えた日に、これまた息抜きで「プロフェッショナル:仕事の流儀」の田尻悟郎先生の回を見ていまして、同じようなことを考えていらっしゃった(と僕は解釈しました)ので、それもあって関係性の欲求を中心とした内容で授業を考えてみようと思い立ちました。

しかしながら、関係性と言っても、教師と学習者の関係もあれば、学習者同士の関係性もあります。どちらを中心に考えて行こうかなと考えた結果、クラスの実態等も考慮して、まずは教師と学習者の関係を築けるような授業を構築しようという考えにいたりました。

その一方で、夏休みに動機づけについて勉強しましたが、動機の中には

統合的動機
道具的動機
外発的動機
内発的動機
達成動機
Willingness to Communicate
ideal L2 self

など多種多様なものがあることを知りました。僕は動機づけに関しては素人で、かつ授業に役立てるために勉強したので、それぞれの意義や問題点等は横においておき、この中のどの動機を中心に活性化させようかなと考えました。その結果、まずは「できた」という達成感を味合わせるために達成という要素を活性化させようという風に考えました。

「関係性」+「達成感」=全体授業からの脱却
「関係性(教師対学習者)」と「達成感」この二つを軸として考えた結果、生徒に課題を与え、それを教師の前でこなしていく「個別指導」をすることにしました。つまり、「今日の授業時間内ですること①新出単語の意味を教師の前で言う、②教科書の内容理解問題に取り組む、③音読、④暗唱」という具合に課題を明確にし、一つ一つ教師の前でさせます。そして「合格」した学習項目を学習者ごとに一つ一つチェックして行きます。この点は関係性を活性化させる目的で行っています。

もう一つ、「達成」を活性化させるために、明確な合格基準を設けるようにしました。例えば前述①の新出単語の意味を教師の前で言う活動は「一問はパス(わからない)できるけど、二問パスしたらやり直し」という基準を設けて取り組んでいます。また、③の音読についても「教師の前でスラスラ読める」では基準が曖昧なので、教師が一度生徒の気持ちになって読んでみて、タイムを計測し、そのタイムに何秒か上乗せした時間以内に読むように指示しています(例えば教科書p. ○○は30秒以内、など)。そうすることで、単に音読するだけでなく、明確に「30秒以内に読まなければいけない」ということになり、目標達成のために熱心に練習しています。教師のところに来て教師と「勝負」する時間以外は各自が練習する時間に当てます。

このスタイルを導入して気づいたこと:積極性、個々の学習者の把握、mixed levelへの対応
このような方法をとりはじめて2回ほどですが、気づいたことを書こうと思います。

まず、全体授業ではほとんど意欲を見せなかった学習者が基準を達成するために何度もチャレンジしたり、積極的に「これどんな意味?」などと聞きにくるようになりました。特に一番難しいと考えていたクラスでこのスタイルがてきめんで、あまりに集中して取り組んでいたのでこちらが驚きました。

次に、このスタイルをとって、こちらが一つ一つ合格した基準を学習者ごとにチェックすることで、個々の学習者が現在どの程度学習が進んでいるのかを明確になりました。Aくんは音読が終わって暗唱まで済んでいる。Bくんは音読はできたけれども、暗礁はまだ。Cくんは単語の意味を覚えることで苦労しているな、などです。これがチェックされたシートをみるだけで一目瞭然なので、個々の学習者にどのような支援をしていくべきか、ということを考える非常によい資料ができていることに気づきました。

3つ目ですが、この方法により、学習者がある程度自分のペースで勉強できるということです。これは予期していなかったことなのですが、とてもよい副産物でした。一斉授業オンリーだと、学習者の理解状況はある程度加味しつつも、「進まなければいけない」という事情もあり、板挟みになることが多かったのですが、この授業スタイルをとることで、各自が自分のペースで勉強できるため、習熟度が高い学習者、低い学習者の両方のニーズをうまく満たすことができる可能性を秘めていると言えます。実際にはmixed levelに対応できるような段階まで自分のスタイルが洗練されていませんが、この先課題の目標を二段階に設定するなど工夫することで十分対応可能な気がします。

まだ2,3回しか授業をしていないので何とも言えないですが、少なくとも上記のような利点が見られており、授業をしている身としてはホッとしています。一人一人の学習者と話すこともできるので、ある程度関係を作る時間もあり、これからどんどん関係を深めていけるとよいと思っています。また、明確な基準を明確に設定し「できそうで、一発で簡単にはできないであろう基準」を心がけることで、学習者は「あと少しでできるかも」という期待から彼らなりに練習し、できたときには「よっしゃ!」という声が聞こえるようになってきています。達成感の部分も少しは刺激できているかなと思います。

ただし、いいことづくめというわけではありません。授業の後半になると集中力がきれてくる学習者がいたり、クラスが騒がしくなったり(いい意味でも悪い意味でも)するなど、考慮するべきことはまだまだたくさんあります。その点を一つ一つ記録し、どのように解決していくかを考慮していこうと思います。

ブログ移転に伴い

長らく使用していたtaku.free-club.netから独自ドメインを取得し、サーバーも移転しました。以後はこちらの方でブログの運営をしていきたいと思います。

リンクを貼ってくださっている方、お手数ですが、

http://www.takuro-fujita.com

にリンクの方の貼り替えをお願いいたします。

ブログ移転に伴い、以下の点を更新しました。

■ wordpressを最新版にアップデート

■ 以前のブログの全投稿・ページ・コメントを移行

■ テーマをインストール&CSSを若干修正

■ リンクしていたブログの中でリンク切れのものを削除

■ リンクの整理

■ サイドバーの整理

■ 研究業績欄の行間を整理

■ Fujita (2011) ARELE論文のリンクを追加(研究業績)

■ Fujita (2006) MA dissertationのfulltextを追加(研究業績)

■ 藤田(2011)「英語教育」の情報を追加(研究業績)