McDonough, K. (2006). Action Research and the Professional Development of Graduate Teaching Assistants. The Modern Language Journal, 90(1), 33–47. https://doi.org/10.1111/j.1540-4781.2006.00383.x

アメリカのイリノイ州の大学院にて、著者が行ったARセミナーが、TAたちの成長にどのような影響を与えたかを調査した研究です。

ARセミナーに参加した7名の学生が研究協力者で、彼らはセミナー中にARの講義を受けたり、クラスメートや教員とディスカッションをしたり、実際にARを行ってみたりしたようです。期間は1学期間。データとして研究協力者が週に2報以上書くことを求められたジャーナル、学期の最後に自身の成長について振り返って書くエッセイ、実際に行ったARプロジェクト、コースフィードバック、著者のフィールド・ノーツが用いられ、質的に分析が行われました。

その結果、以下のことがわかりました。

(1)ARのセミナーを通して研究に対する広い認識をもつようになったことが報告されました。具体的には、実証主義的な研究だけでなく、小規模で文脈に根ざした探求も研究として認識するようになっていったことが報告されました。ただし、著者が講義で説明しても研究協力者のARの妥当性についての疑問を払拭することは難しかったと報告されました。実際、著者も”I was occasionally frustrated” (p.39)と書いていることから、この点は本当に苦労したんだなということがうかがえます。

(2)セミナーやARを通して、研究協力者の協働への認識も肯定的なものに変容していったという報告がされました。具体的には、他者との関わりの中で研究について動機づけられたことが報告されました。

(3)ARで得た知識を教室内で実際に使用し、指導実践を向上させる様子が見られたと報告されました。この点については、自身の内省からの気づきだけでなく、同僚や指導教員の授業を観察することで気づきを得たエピソードも取り上げられました。

(4)ARセミナー終了後にメールでフォローアップの調査をメールで行った結果、7名中5名の協力者がARプロジェクトを続けた一方で、数名のTAは新しく研究する動機づけを得ることがなかったことが報告されました。そして、セミナーを受講した協力者全員がARセミナーに対する継続的な効果を感じており、ARで実施したテクニックを後にも使用しているという報告がされました(ただし、この点は研究協力者がメールで著者自身に送っているため、リップサービスも大いにありえる点は注意するべきだと著者自身も述べています)。

これらの結果およびセミナーでの実践を踏まえて、著者は、ARについて読んだり計画したりするだけではなく、実際にやってみることで得るものが大きいこと、ARの公開がとても有益であったことが研究協力者から報告されたこと、公刊されたARについてセミナーで検討することは非常に有益であったことが報告されました。

本稿に限らず、ARの意義・効果が報告されている研究では、研究法に関する講義やセミナーが開催されているものが多いように思います。そして、これらのセミナーから学ぶべきものが多いということもよく報告されているように思います。ただ、研究方法を学べる場面は限られているようにも思います。もし大学に所属していなければ、研究法を学べる場面は、基本的に書籍か学会のセミナーに参加するかしかないように思います。日本の英語教育学会でも研究法に関するセミナーが盛んに行われていますが、欲を言えば、ZoomやMicrosoft teamsが盛んに用いられるようになった今こそ、各種研究法セミナーがオンラインでもっと盛んに開催されると嬉しいなあと思います。

コロナ禍で実践研究どころではないように感じることもあるかもしれませんが、先が見えない現在こそ、実践研究のスキルが活きていくる気もしています。例えば、リフレクティブ・サイクルを意識し、計画ー実践ー情報(データ)収集・分析ー内省を意識して行動できるかどうかというのは、教師としても一つの気持ちの拠り所になるのではないかと思います。そういった意味で、明日から使える授業の「技」「アイディア」だけでなく、(実践)研究スキルを学び、使えるようになるといいなあと思います。