動機づけを高めるために:全体授業からの脱却

現在の職場は以前も書いたように、少人数での授業を実施しています。しかしながら少人数のメリットを十分に活かせていなかったことや、普段の授業の学習者の意欲を観察していて、何か今までとは違う手段が必要だなと感じていました。

そこで、休憩がてらぼーっと考えていた時に、ふと以前読んだ自己決定理論の概要が頭をよぎりました。僕が読んだ文献の中では、自己決定理論の中で動機を高める要素の中に「関係性の欲求」ということが述べられていました。その時はただ単に読んだだけだったのですが、実際の授業を通して改めて自己決定理論に触れた時、この「関係性の欲求」に焦点を当てて授業を行うことから始めようと考えました。また、ちょうどそう考えた日に、これまた息抜きで「プロフェッショナル:仕事の流儀」の田尻悟郎先生の回を見ていまして、同じようなことを考えていらっしゃった(と僕は解釈しました)ので、それもあって関係性の欲求を中心とした内容で授業を考えてみようと思い立ちました。

しかしながら、関係性と言っても、教師と学習者の関係もあれば、学習者同士の関係性もあります。どちらを中心に考えて行こうかなと考えた結果、クラスの実態等も考慮して、まずは教師と学習者の関係を築けるような授業を構築しようという考えにいたりました。

その一方で、夏休みに動機づけについて勉強しましたが、動機の中には

統合的動機
道具的動機
外発的動機
内発的動機
達成動機
Willingness to Communicate
ideal L2 self

など多種多様なものがあることを知りました。僕は動機づけに関しては素人で、かつ授業に役立てるために勉強したので、それぞれの意義や問題点等は横においておき、この中のどの動機を中心に活性化させようかなと考えました。その結果、まずは「できた」という達成感を味合わせるために達成という要素を活性化させようという風に考えました。

「関係性」+「達成感」=全体授業からの脱却
「関係性(教師対学習者)」と「達成感」この二つを軸として考えた結果、生徒に課題を与え、それを教師の前でこなしていく「個別指導」をすることにしました。つまり、「今日の授業時間内ですること①新出単語の意味を教師の前で言う、②教科書の内容理解問題に取り組む、③音読、④暗唱」という具合に課題を明確にし、一つ一つ教師の前でさせます。そして「合格」した学習項目を学習者ごとに一つ一つチェックして行きます。この点は関係性を活性化させる目的で行っています。

もう一つ、「達成」を活性化させるために、明確な合格基準を設けるようにしました。例えば前述①の新出単語の意味を教師の前で言う活動は「一問はパス(わからない)できるけど、二問パスしたらやり直し」という基準を設けて取り組んでいます。また、③の音読についても「教師の前でスラスラ読める」では基準が曖昧なので、教師が一度生徒の気持ちになって読んでみて、タイムを計測し、そのタイムに何秒か上乗せした時間以内に読むように指示しています(例えば教科書p. ○○は30秒以内、など)。そうすることで、単に音読するだけでなく、明確に「30秒以内に読まなければいけない」ということになり、目標達成のために熱心に練習しています。教師のところに来て教師と「勝負」する時間以外は各自が練習する時間に当てます。

このスタイルを導入して気づいたこと:積極性、個々の学習者の把握、mixed levelへの対応
このような方法をとりはじめて2回ほどですが、気づいたことを書こうと思います。

まず、全体授業ではほとんど意欲を見せなかった学習者が基準を達成するために何度もチャレンジしたり、積極的に「これどんな意味?」などと聞きにくるようになりました。特に一番難しいと考えていたクラスでこのスタイルがてきめんで、あまりに集中して取り組んでいたのでこちらが驚きました。

次に、このスタイルをとって、こちらが一つ一つ合格した基準を学習者ごとにチェックすることで、個々の学習者が現在どの程度学習が進んでいるのかを明確になりました。Aくんは音読が終わって暗唱まで済んでいる。Bくんは音読はできたけれども、暗礁はまだ。Cくんは単語の意味を覚えることで苦労しているな、などです。これがチェックされたシートをみるだけで一目瞭然なので、個々の学習者にどのような支援をしていくべきか、ということを考える非常によい資料ができていることに気づきました。

3つ目ですが、この方法により、学習者がある程度自分のペースで勉強できるということです。これは予期していなかったことなのですが、とてもよい副産物でした。一斉授業オンリーだと、学習者の理解状況はある程度加味しつつも、「進まなければいけない」という事情もあり、板挟みになることが多かったのですが、この授業スタイルをとることで、各自が自分のペースで勉強できるため、習熟度が高い学習者、低い学習者の両方のニーズをうまく満たすことができる可能性を秘めていると言えます。実際にはmixed levelに対応できるような段階まで自分のスタイルが洗練されていませんが、この先課題の目標を二段階に設定するなど工夫することで十分対応可能な気がします。

まだ2,3回しか授業をしていないので何とも言えないですが、少なくとも上記のような利点が見られており、授業をしている身としてはホッとしています。一人一人の学習者と話すこともできるので、ある程度関係を作る時間もあり、これからどんどん関係を深めていけるとよいと思っています。また、明確な基準を明確に設定し「できそうで、一発で簡単にはできないであろう基準」を心がけることで、学習者は「あと少しでできるかも」という期待から彼らなりに練習し、できたときには「よっしゃ!」という声が聞こえるようになってきています。達成感の部分も少しは刺激できているかなと思います。

ただし、いいことづくめというわけではありません。授業の後半になると集中力がきれてくる学習者がいたり、クラスが騒がしくなったり(いい意味でも悪い意味でも)するなど、考慮するべきことはまだまだたくさんあります。その点を一つ一つ記録し、どのように解決していくかを考慮していこうと思います。

和訳先渡しについて考える

さて、和訳先渡し(+少し解説)方式で授業をスタートさせてしばらく経ちますが、学習者は和訳や解説を活用しながら何とか自分でできる活動に取り組んでくれています。それはそれでいいのですが、ちょっと考えなければいけない点が出てきたので、考えを整理するためにもブログに書いておこうと思います。

現在は和訳と少々の解説を渡し、word huntingやsentence huntingに取り組んでいます。これらの活動に一生懸命取り組んでいるのですが、とある単元(ピーターラビットに関する単元)をやったときに、「せっかくピーターラビットをやっているのだから、ピーターラビットのお話自体をやりたい」といった声を聞きました。word huntingやsentence huntingは確かに取り組みやすいのですが、言語形式面のみに焦点を当ててしまっているので、学習者にとってはあまり動機付けが高くない活動だったように思います。決してword huntingやsentence huntingの活動自体が必要なかったり悪い活動だと言っているわけではありません。ただ、こういった言語形式面へ焦点を当てるだけでなく、もっと内容について考える活動を取り入れていく必要があるように感じています。

前回、前々回の投稿にも書きましたが、和訳先渡しはどのようなタスクを用いるかが一つの鍵となります。形式面の勉強のみに焦点を当てて英文を読んでしまうと、言ってしまえばテキストに書かれている内容自体は何でもいいことになってしまいます。それではせっかくのパッセージがもったいないです。もっと読む目的を明確にして取り組むことで、なぜその文章を読まなければいけないのかをはっきりさせたり、パッセージの内容に焦点を当ててもらうことが可能になるように思います。そして、読んでいく中で分からない部分が出てくる(Swainのいうnoticing a hole)、つまり、形式に焦点を当てる場面というのは学習者の習熟度を考えると必然的に出てきます。一つ一つのholeの出どころは学習者によって異なるので、授業で埋めて行こうとすると形式面の解説で終わってしまうので、その部分を和訳先渡し+解説プリントで埋めてあげるようにすることで、授業自体は内容面に焦点を当てながら形式にもnoticing a holeに対処することができそうです。

上記のように考えたので、早速次の授業でやってみたいと思います。

2週間が経ちました。授業スタイルその後は

授業が始まって早二週間が経ちました。前回の投稿で授業スタイルについて考えましたが、その後の経過を書きたいと思います。

まず、all Englishの授業について。こちらは三回程授業しましたが、英語で授業をするという雰囲気に少しずつ慣れてきたように思います。こちらから英語で質問が飛んでくるので、それに答えるというスタイルです。基本的には①インタラクション形式で新出言語材料を導入かつ使っていく。教師対学習者の一対一のインタラクションなので、当てられてた学習者はいきなり新出言語事項を使うことが求められますが、こちらがどのように答えるかを支援しているので、答えに困ることは現在のところほとんどありません。同一の質問で学習者を変えてインタラクションしているので、聞いている学習者は何を聞かれて何を答えるかに焦点を当てて聞いているように思います。「分からない」を現段階ではあまり感じさせたくないので、質問→答え→very good のIRFパターンでのインタラクションになっていますが、現段階ではOKとしています。将来的にはfollow-up questionを加えたり同じ質問をクラス全体に問いかけたりすることで、話題を広めたり深めたりできるといいなと思っていますが、もう少し英語に対する慣れと表現のストックが必要となりそうです。

次に和訳先渡しについて。こちらは問題を与える→日本語を読む→日本語に該当する英語を抜き出して答える、というプロセスを学習者は踏んでいるように思います。課題の負担は軽いため、ほとんどの学習者が取り組めているようにおもいます。しかしながら、英語を実際にプロセスしているかどうかと言われるとかなり疑問が残るようにも感じています。和訳先渡し形式の授業では同一のパッセージを、タスクを工夫することで何度も読ませることは可能ですが、英語を実際にどのように学習者にintakeさせるかという点から考えるともう一工夫必要な気がします。

一応ここまでの実践の振り返りとして書きました。あまり頻繁にスタイルを変えることはよいことではないように思われるので、もうしばらくこのスタイルで様子をみてみようとおもいます。