加藤由崇・松村昌紀・Paul Wicking(編著) 横山友里・田村祐・小林真実 (著) (2020).『コミュニケーション・タスクのアイデアとマテリアル』三修社

本書、刊行が分かったときに即購入しようと思っていましたが、大変ありがたいことに、2020年末に著者よりご恵送いただきました、深く感謝いたします。ありがとうございます。

本書には、タイトルの通り、タスク・ベースの授業 (task-based language teaching, 以下、TBLT) を行うための具体的な教材が豊富に掲載されています。TBLTは第二言語習得研究や英語教育研究の中でも注目されているアプローチですが、冒頭で著者らが述べているように、教材が不足しているという欠点がありました。また、「タスク」の具体例が少なかったために「◯◯はタスクと呼べるか」的な話があがることもしばしばあり、何がタスクで何がタスクではないかが必ずしもきちんと理解されているとは言えないという点が問題点として挙げられていました。本書では、第1章「タスクの基礎知識」にて、タスクの具体的なタイプとして情報伝達、情報合成、ナレーション、問題解決、意思決定の5つを提示し、第2章でそれぞれのタイプの具体的なタスクを豊富に提供しています。これまでTBLTについての実践例や理論的視点をまとめた本や文献は(主に洋書で)たくさん出てきましたが、本書は日本の文脈に合わせたタスクを豊富に提示しているという点でこれまでになかったタイプの本になっており、上記のTBLTの問題点を見事にカバーしていると思います。

本書の最も簡単な活用の方法は、掲載されているタスクをそのまま1つずつ授業に導入していくことでしょう。これだけでも十分すぎるほど役に立ちますが、タスクに慣れてきたら本書に掲載されているタスクを参考にしてオリジナルのタスクを作成するのもよさそうです。それぞれのタスクについて「活動の準備と手順」が示されているため、タスクの指導手順はそのまま使いつつ、マテリアルをオリジナルにすることで、個々のクラスや学校の状況に合わせたタスクを効率的に作成することができそうです。

第3章では、「活動成功の秘訣」として、学習者同士のペアやグループの組み方、指示の与え方、タスクの計画の準備や計画、自作の方法、展開の仕方、フォローアップの仕方、活動の評価方法など様々な点について著者らが実践の中で積み上げてきたであろうtipsが掲載されています。これはそのまま読んでももちろん参考になりますが、実際にタスクを行いながら定期的に見返すことで自身の授業に対して実践的な気づきが得られそうです。また、ここに書かれている「秘訣」を参考にしながらオリジナルの「活動成功の秘訣」を言語化してシェアし合うのも面白そうです。

タスクは投込的に「一度やってみよう」というレベルから、中長期的に戦略を立ててコースやプログラムとしても活用可能です。自分自身はこういった活動を取り入れつつも、なかなか中長期的にかつ体系的に指導出てきていないという反省がずっとあります。次年度の授業では本格的にTBLTを取り入れて授業をしていこうと思っています。