効果量とRについて勉強しよう

英語教育界隈の方々が全国英語教育学会で盛り上がっている最中、地元では有志6人で研究法についての勉強会を行いました。きっかけは、ある先生が統計手法について勉強しましょうと声をかけていただいたのがきっかけでした。勉強会は思った以上に中身の濃い充実したものになり、ぜひ冬季も開催したいと思わされました。

僕からはデータの視覚化と効果量、そしてRの簡単な使い方についてお話させていただきました。僕以外の先生方と基礎的な観点を確認しあうことができたことが収穫でした。Rや効果量について興味を持っていただけた先生も(多分)いらっしゃったと思いますので、紹介した資料をウェブ上にまとめておこうと思います。

効果量については水本篤先生、浦野研先生が大変わかり易く解説してくれています。Rやデータの視覚化という観点からは小林雄一郎先生、阪上辰也先生のお二方の資料が参考になります。また、水本・竹内(2011,2008)は効果量を勉強したい人にとっては広く知られていますのでまずはこちらを一読されることをおすすめします。 効果量に関する文献も下の資料の中で紹介されていますが、まずは下の発表資料をきちんと理解した上で専門書の方にとりかかるとより理解が深まるように思います。

浦野 研(2013)「有意性や効果量についてしっかり考えてみよう」外国語教育メディア学会第53回全国大会発表資料 http://www.slideshare.net/uranoken/let2013workshop

その他PDF形式やkeynote形式でも資料を配布されています。

http://www.urano-ken.com/blog/2013/08/05/let2013-workshop/

水本 篤(2012)「Excelを使った統計解析とグラフ化入門」2012年度大学英語教育学会(JACET)関西支部秋季大会企画ワークショップ発表資料

http://www.slideshare.net/AtsushiMizumoto/excel-15316169

水本 篤・竹内 理(2011)「効果量と検定力分析入門ー統計的検定を正しく使うためにーより良い外国語教育研究のための方法ー」『外国語教育メディア学会関西支部メソドロジー研究部会2010年報告論集ー』47-73頁

http://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/handle/10112/6008

水本 篤・竹内 理(2008)「研究論文における効果量の報告のためにー基礎的概念と注意点ー」『英語教育研究』第31号 57-66頁 http://www.mizumot.com/files/EffectSize_KELES31.pdf

小林雄一郎(2013)「Rによる統計グラフ入門」LET中部支部第81回支部研究大会ワークショップ発表資料

http://www.slideshare.net/langstat/let-chubu-2013

小林雄一郎(2011)「Rによる成績データ分析入門」外国語教育メディア学会(LET)関西支部メソドロジー研究部会2011年度報告論集 81-91頁

http://www.mizumot.com/index/method2011.html

阪上辰也(2011)「統計解析環境「R」を利用した言語データの処理」外国語教育学会(LET)関西支部メソドロジー研究部会2011年度報告論集 8-14頁

http://www.mizumot.com/index/method2011.html

札幌R勉強会(2013)オンライン動画集

http://www.ustream.tv/channel/sapporo-r-2.

佐藤学・岩川直樹・秋田喜代美(1991)「教師の実践的思考様式に関する研究(1)ー熟練教師と初任教師のモニタリングの比較を中心にー」『東京大学教育学部紀要』第30巻, 177-198頁を読みました。

佐藤・岩川・秋田(1991)を読みました。熟練教師と初任教師の実践的思考様式に関する研究です。簡単に言ってしまうと、熟練教師とそうでない教師とでは、考え方にどのような差があるのかを調べた研究です。以下結果のみ簡単にまとめます。

1)熟練教師は授業過程の即興的思考が初任教師よりも豊かである。

2)熟練教師は子どもの学習に敏感であり、問題、意味を解読し、多様な方法を模索しながら実践の問題の解決や理解を行っている。

3)熟練教師は授業者として、観察者として、子どもの立場として、など様々な視点を統合して事実の解釈と判断を行っている。

4)熟練教師は子どもの行動をこれまでの授業展開や時間的な関係、他の子どもとの関連の中で位置づけて理解、判断している。

5)熟練教師は基準の適用ではなく、授業に固有な問題の枠組みを再構成している。

佐藤先生らの研究によると上記の5つが初任教師と熟練教師を分ける要因であることが判明したようです。この5つの指標を以て自分の教師としての態度を振り返ってみると面白いかもしれません。 ちなみに僕の場合、授業中にこれらの5つを意識的・無意識的に行えているとは思えません。しかしながら、新採用時代の特別支援学校での経験、そして、今年度CELESで発表したアクション・リサーチを通して、2)3)4)を多少たりとも意識するようになったように思います。

特別支援学校では個に焦点を当てた教育が行われます。僕が経験した範疇では、教師は多くても二、三人のみを担当します。個人に合わせたケース会議が頻繁に行われます。成績は普通学校のように数値ではなく、文章で表されるものが多いように思います。このような状況で教師は、担当する学習者のことを深く理解することを求められます。理解しようとするためには、対象の学習者をよく観察しなければいけません。「こういう介入をするとこの子はどのような反応をするのだろう」「何故今この子はこういう反応をしているのだろう」などと常に学習者の様子を理解・解釈しようと努めるようになります。こういった姿勢は恥ずかしながら、特別支援の経験を通して初めてきちんと培われるようになってきたように思います。

話はかわりますが、CELESで発表したアクション・リサーチでは教師による授業記録をデータの一つとして使用しました。授業記録を書くためには教室内で起こっている現象、学習者の様子をしっかりと観察しないと、「今日の授業はよかった、だめだった」程度の記述しか残せません。授業中、「今日の記録には何を残せるのか」といった視点で学習者や教室内の現象を見ていると、授業中の学習者の様子に自然と目がいくようになります。学習者の様子を観察していると今度は「彼(女)らは何を思って今このような行動をとっているのだろう」と考えるようになります。このような視点は授業者としての視点と観察者としての視点、そして子どもの立場に立とうとする姿勢ができてきたということになるように思います。「授業記録を書かなければいけない」という課題を自分に与えることで、必然的に2)3)4)をより強く意識し出したように思います。

この二つの事例で言えることは「書く」と言う行為が自分を成長させてくれたように思います。授業時の学習者の様子、教室内での現象を描写すること、起こった現象に対する教師自身の推論、解釈を記録していくというタスクが、ショーンの提唱する「行為についての省察(reflection-on-action)」が促されたのかなと思います。もしそうであれば、教師は「書く」という行為を続けること、つまりは反省的な実践を積み重ねていくことで熟練教師への階段を上っていくのかもしれません。

文献はこちらから無料でDLできます。

佐藤学・岩川直樹・秋田喜代美(1991)「教師の実践的思考様式に関する研究(1)ー熟練教師と初任教師のモニタリングの比較を中心にー」『東京大学教育学部紀要』第30巻, 177-198頁 http://ci.nii.ac.jp/naid/110000197584

終わりました

第43回中部地区英語教育学会が無事終わりました。運営にご尽力いただきました先生方、学生さん本当にありがとうございました。また、大変素晴らしい先生方や新進気鋭の大学院生さんたちと同時間に発表になったにも関わらず、私の発表を聞きにきてくださった皆様、本当にありがとうございました。おかげさまで今年も学会内外で楽しく充実した時間を過ごすことができました。

取り急ぎ本日のハンドアウトをアップロードしました。こちらのリンクからご覧いただけます。

藤田卓郎(2013)「TBLTのフレームワークを活用した英語授業に対する動機づけを高めるための実践:職業高校生を対象としたアクション・リサーチ」第43回中部地区英語教育学会

http://takuro-fujita.com/publication/2013celes.pdf